不二工芸製作所の代表を務めている前島正容です。不二工芸製作所という社名からは、事業内容がわかりにくいかもしれません。1946年に初代・前島武雄が設立した木工芸が由来です。その後、電子卓上計算機やデジタルウォッチの製造といった電子産業に参入し、時代の変遷とともに事業を転換していきました。
現在は、健康食品の受託製造事業をはじめとする“食と健康”の分野に力を入れています。グローバル水準のクリーンルームの活用や多品種・小ロットでの生産対応など、電子機器の製造で蓄積してきた設備やノウハウが継承されています。
私たちが「アグリ事業」と位置づけている不二バイオファームでは、新芽野菜を栽培しながら、発酵技術を活かして発芽そば発酵エキスの製造も手がけています。健康食品の受託製造に加えて、新芽野菜の高付加価値化――自社ブランドの機能性素材の開発を進めてきたというわけです。
会社の顔となった“そばの新芽”の水耕栽培に乗り出したのは、1996年のことでした。そもそもアグリ事業に参入したのは、少子高齢化に突入する日本では安心・安全な野菜のニーズが高まると考えたからです。そして、「健康」がキーワードになると見ていました。
実際、国は高騰する医療費を抑制するために、健康の維持・増進に焦点を当てた施策を推進しています。切り札が「運動と食事」です。安定した食事をサポートするのは健康食品であり、また健康食品は医薬品を補足する位置づけから、安全で高品質な製品へと進化しています。
こうした時代の変化から、創業75年を経て、私たちは食品メーカーとして自立する方針へと舵を切りました。新芽は特徴的な栄養成分が多く含まれることが知られています。特にそばはルチンという成分が豊富で、新芽にすると付加価値が高い食材になると確信していました。富士山麓の水で育てた新芽野菜を出荷する一方で、発酵をベースとした商品の研究・開発にも産学官で取り組むようになったのです。
不二バイオファームの強みである発酵技術が確立されたのは2002年、いまから20年前のことでした。そばの新芽の青汁を試作した際、青汁が発酵していることに偶然気がつきました。そばは古くから食されてきた食材です。発酵にも長い歴史があります。「新芽と発酵の組み合わせは体にいいはずだ」という確信が私にはありました。
ご縁があって、発芽による食品の機能性を研究している信州大学大学院農学研究科の茅原紘教授(当時)を訪ねることになりました。発芽そば発酵エキスの特性を分析してもらうためです。試験の結果、高血圧の一因である「アンジオテンシンⅠ変換酵素」という酵素の生成を阻害する作用があることがわかりました。
この結果を受けて、2004年には発芽そば発酵エキスの効能に関する特許を取得しました。これが当社の発酵技術の原点です。
その後、泌尿器科の専門医とのご縁で、当初想定していなかった方向へと研究が進んでいきます。発芽そば発酵エキスを開発した当初、喘息持ちの知人に試飲をお願いしていました。「発酵食品だからアレルギーにもいいのではないか」という思いつき程度のものだったのですが、彼女から後日、「症状が和らいだ」という連絡を受けたのです。
その専門医こそが、中村病院(大分県別府市)副院長の酒本貞昭先生でした。泌尿器科専門医である酒本先生は、治療法が確立していない間質性膀胱炎への臨床応用を見据えていたわけです。私が間質性膀胱炎という難病の存在を知ったのは、酒本先生との出会いがきっかけでした。
間質性膀胱炎は、極度の頻尿と排尿痛が生じる病気で、女性に多いことがわかっています。原因はいまだ解明されていませんが、仮説の一つとしてアレルギーの関与が疑われています。認知は高くなりつつあるものの、専門医がいまだ少なく診断も難しいことから、病名のわからないまま間質性膀胱炎に苦しめられている人は多いのが現状です。
発芽そば発酵エキスの有効性を検証するために、酒本先生が間質性膀胱炎の患者さん11人を対象とする試験を実施したところ、9人の試験参加者から「症状が改善した」という報告を受けたそうです。試験の結果は2009年、日本間質性膀胱炎研究会で発表されました。
その後、静岡県の助成を受けて実施した試験でも、20人中16人に症状の改善が認められました。これらの情報は口コミで広がっていったようで、間質性膀胱炎の患者さんから直接ご連絡をいただく機会も増えていきました。
2019年には、「間質性膀胱炎患者に対する発芽そば発酵エキス配合食品の効果に関する臨床研究」と題した研究成果を日本泌尿器科学会で発表することができました。酒本先生、静岡県立大学大学院薬学研究院特任教授、同大学附属薬食研究推進センターセンター長の山田静雄先生、かげやま医院(静岡市)院長の影山慎二先生と取り組んできた試験の成果です。
一方で、今後は作用機序の解明が求められます。今後は、メカニズムの解明を目的とした試験を実施する予定となっており、発芽そば発酵エキスと間質性膀胱炎との関係を明らかしていく方針です。
今後、私たちの研究・開発の状況だけでなく、日々のリサーチで得られた間質性膀胱炎に関する情報をはじめ、健康に役立つ情報をご紹介していきます。
株式会社不二工芸製作所 会社概要 (tetuzin.co.jp)
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